協議項目:オーバーハンドパスにおける力を負荷するタイミング

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バレーボール記事

   オーバーハンドパスにおける力を負荷するタイミング   




   三村泰成       (鶴岡高専)   




バネ(腱)とアクチュエータ(筋)の力学モデル

まず、サッカーボール、バレーボール5号球、バレーボール軽量4号球を1m程度の高さからバウンドさせたときの床反力と時間の関係を図1に示します。ボールが弾性エネルギー(図示されている面積は力積です)を蓄えて放出する状態(バネが縮んで伸びる状態)が見られ、0.01秒という一瞬の現象です。

[図1 ボールがバウンドしたときの床反力]


図2はボールがバウンドしている模式図です。かなりのエネルギはボールに吸収されると考えられ、力積は小さくなると考えられます。赤い部分の力積(面積)が跳ね返るときの初速度に変換されます。

※[ボールの打ち出し速度] = [力積]/[ボールの質量]


[図2 ボールバウンド]


では、図3のようにボールと床の間にボールよりもエネルギを吸収できるバネを置いてみます。バネが縮むことでエネルギを吸収し、伸びることでエネルギを放出します。つまり、ボールが高く跳ね返ります。吸収した力積と放出する力積は同じです。外見では、バネがボールを素早くキャッチ&スローしているように見えるはずです。

[図3 下にバネバウンド]


下にバネが入った状態は、次のような動画をイメージしてください。 ※実際には、高く跳ね返るのにバランスボールの運動エネルギも加わっています。あくまで、床とボールの間に「バネ」が存在するイメージとして見てください。


次にばねが伸びる瞬間に力を加えるとどうでしょうか。図4のような模式図を考えます。出力側の力積が大きくなるはずであり(赤い面積)、ボールはより高く飛ぶはずです。人間の身体全体の筋腱でバネ(腱)とアクチュエータ(筋)を形成していると考えると、おそらく、0.2秒程度の短時間でこの動作を終了していると予測されます。

※0.2秒という時間は、ジャンプの研究からの予想です。時間については、より詳細な検証が必要です。

[図4 身体全体が筋腱複合体]


これは、ホッピングやロイター板を用いたジャンプと似たようなタイミングにたると考えられます。図5にホッピングを用いたときのジャンプの模式図を示します。適切なタイミングで力を加えることで高くジャンプできます。動画を検証すると、ホッピングの場合、着地から離床までは、0.2秒程でした。


[図5 ホッピングの模式図]


ホッピング:


池谷直樹氏のロイター板を用いたジャンプ:


実際に身体の中で何が起こっているかはさておき、外から見て、身体全体で実践している仕事は、上述のようなものであると考えられます。身体全体をバネとして利用するためには床反力が不可欠です。床とボールの間に、まっすぐ身体が位置しなければ、弾性エネルギを蓄えることも、使い切ることもできません。これは、【オーバーハンド・パスと床反力】でお話したとおりです。


トレーニングについて

手がバネになり、床反力を利用してボールを飛ばす感覚をつかむためには、以下のような練習があります(発案者はそれを「突きトス」と呼んでいました。「トス」と呼んでいますが、トレーニングのやり方です)。 【実際の初心者段階における指導方法について】は、こちら(ブログ)と こちら(ツイッター)にも詳しくあります。 (補足)eペデに載せるときは、布村先生のブログ、ツイッターのリンクを貼ります。


直上突きトス:


ここでは、「直上突きトス」の力学モデルを考察し、なぜ、感じるのに有効なのかを説明します。図6に直上突きパスの力学モデルを示します。「手の平とそれに繋がったバネ」と、「膝のアクチュエータ(動力)」のみを考え、後は全部固まりだとします。



[図6 直上突きトスの力学モデル]


[図7 直上突きトスの動作の流れ]


ボールでバネが縮み、延びる瞬間にあわせて、タイミングよく膝でボールの勢いを加える。このタイミングをつかんでしまえば、「突いている」に近い感覚の動作でも、外から見ると、手の平でキャッチ&スローしているように見えるはずです。最終的な結論として、オーバーハンドパスは、


「突くイメージのパス」

↓↓↓↓↓↓↓↓

「最適なオーバーハンドパス」(最適解)

↑↑↑↑↑↑↑↑

「持つイメージのパス」


というピンポイントの技術であると考えられ、「突いているわけでもなく持っているさけでもない」あるいは、「突いていると同時に持っている」と言えるのかもしれません。特異点のような状態であると考えてくださ。


「直上持ちトス」⇔「直上突きトス」

を繰り返せば、バネ弾性を利用して、あまり力を使わずにボールが飛ぶポイントが見つかるはずです。初期段階で、この最適なポイントを感じることができれば、身体全体を用いた異なる状況下でも、「最適なオーバーハンドパス」を感じる、試行錯誤して探索すことができると考えられ、その後の動作習得をスムーズにできると思われます。



注意していただきたいのは、「持つ」も「突く」も腕だけを用いて実現することが可能であることです。初期段階で「持ちパス」のみだけをトレーニングすると床反力を感じることが非常に難しいです。これが大人になっても腕力だけを用いたオーバーハンドパスしか実施できない状態になる原因であると考えられます。