協議項目:「キャッチ&スロー」と「オーバーハンド・パス」の区別について
バレーボール記事
「キャッチ&スロー」と「オーバーハンド・パス」の区別について |
三村泰成 (鶴岡高専)
目次
腕だけを模した単純な力学モデル
キャッチ&スローは、「ボールの勢いを意識的に吸収し、意識的に筋力を用いてボールを投げる」というのが主な動作だと考えられます。それゆえ、手首に筋肉を取り付けた図1のようなモデルを考えます。ここで、筋肉は縮む方向にのみ力を発揮すると考えます。
図1 キャッチ&スローの力学モデル |
オーバーハンド・パスは、「ボールの勢いをバネで受け止め(弾性エネルギーに変換)、バネの力を利用してボールを飛ばす」というのが主な動作であると考えられます。それゆえ、手首にバネを取り付けた図2のようなモデルを考えます。ここで、バネは伸びるときにエネルギを吸収し、縮むときにエネルギを放出すると考えます。バネの伸び縮みは、脳から命令して実施するような、意識的な動作ではありません。
図2 オーバーハンド・パスの力学モデル |
キャッチ&スローの動作手順
図3にキャッチ&スローの動作手順を示します。
図3 キャッチ&スローの動作手順 |
- ①、② ボールが落下してきます。
- ③ ボールと手が接触します。腕を恣意的に縮めることでボールの勢いを吸収します。
- ④ ボールの勢いを完全に吸収し、ボールが停止します。
- ⑤、⑥ 筋力を用いてボールを投げます。
- ⑥ ボールが手から離れても、投げきります(フォロースルー)。
オーバーハンド・パスの動作手順
図4にオーバーハンド・パスの動作手順を示します。
図4 オーバーハンド・パスの動作手順 |
- ① ボールが落下してきます。
- ② ボールが落下してきている間に、腕を曲げて準備します。
- ③ ボールにたいして腕を伸ばしていき、ボールと手が接触します。ボールの勢いと腕の勢いでバネが伸び始めます。
- ④ バネの伸びが最大に達し、手首に対して相対的にボールが停止しますが、肘は常に伸展方向に運動し続けます。
- ⑤ バネが縮むのに合わせて思い切り肘を伸ばしきります。
- ⑥ ボールが手から離れても、腕全体を手首まで伸ばしきります(フォロースルー)。
随意運動と不随意運動
「キャッチ&スロー」は、脳から命令して運動を行うような随意運動であると考えられます。これに対し、バネの伸縮は、脳からの命令で実践するような反応速度では間に合わないので、不随意運動であると考えられます。それゆえ、「オーバーハンド・パス」は、不随意運動が主動作であると思われます。図5に「必要な消費エネルギ」と「手の速度」をグラフ化した概念図を示します。「キャッチ&スロー」で実現できる速度には限界があると考えられ、「オーバーハンド・パス」の力学現象とは、非連続になっていると思われます。手の速度を上げるためには、バネ弾性を利用することが不可欠です。
「キャッチ&スロー」と「オーバーハンド・パス」は、全く異なる力学的現象であることを認識する必要があります。それゆえ、「キャッチ&スロー」だけでは、バネ弾性を感じることは不可能であり、「突きトス」のようなトレーニングを用いて、安全にバネ弾性を感じることが重要になってきます。もちろん、バネ弾性だけではボールは飛ばせないので、力を加えるタイミングについては、こちらも参照してください。
図5 キャッチ&スローとオーバーハンド・パスの非連続性 |
目視による「キャッチ&スロー」と「オーバーハンド・パス」の判別方法
オーバーハンド・パスではボールが手に触れてから以後は、肘が伸展方向にしか動きません。ボールの勢いはバネ弾性のみを用いて吸収します。これに対して、ボールが手に触れてから、肘を屈曲方向に動かしてボールの勢いを吸収した場合には、キャッチしたと判別できます。