「協議項目:オーバーハンドパスにおける力を負荷するタイミング」の版間の差分
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2016年1月13日 (水) 11:12時点における版
バレーボール記事
オーバーハンドパスにおける力を負荷するタイミング |
三村泰成 (鶴岡高専)
バネ(腱)とアクチュエータ(筋)の力学モデル
まず、サッカーボール、バレーボール5号球、バレーボール軽量4号球を1m程度の高さからバウンドさせたときの床反力と時間の関係を図1に示します。ボールが弾性エネルギー(図示されている面積は力積です)を蓄えて放出する状態(バネが縮んで伸びる状態)が見られ、0.01秒という一瞬の現象です。
図1 ボールがバウンドしたときの床反力 |
図2はボールがバウンドしている模式図です。かなりのエネルギはボールに吸収されると考えられ、力積は小さくなると考えられます。赤い部分の力積(面積)が跳ね返るときの初速度に変換されます。
※[ボールの打ち出し速度] = [力積]/[ボールの質量]
では、図3のようにボールと床の間にボールよりもエネルギを吸収できるバネを置いてみます。バネが縮むことでエネルギを吸収し、伸びることでエネルギを放出します。つまり、ボールが高く跳ね返ります。吸収した力積と放出する力積は同じです。外見では、バネがボールを素早くキャッチ&スローしているように見えるはずです。
図2 ボールバウンド力 | 図3 下にバネバウンド |
下にバネが入った状態は、次のような動画をイメージしてください。
※実際には、高く跳ね返るのにバランスボールの運動エネルギも加わっています。あくまで、床とボールの間に「バネ」が存在するイメージとして見てください。
次にばねが伸びる瞬間に力を加えるとどうでしょうか。図4のような模式図を考えます。出力側の力積が大きくなるはずであり(赤い面積)、ボールはより高く飛ぶはずです。人間の身体全体の筋腱でバネ(腱)とアクチュエータ(筋)を形成していると考えると、おそらく、0.2秒程度の短時間でこの動作を終了していると予測されます。
※0.2秒という時間は、ジャンプの研究からの予想です。時間については、より詳細な検証が必要です。
図4 身体全体が筋腱複合体 |
これは、ホッピングやロイター板を用いたジャンプと似たようなタイミングになると考えられます。図5にホッピングを用いたときのジャンプの模式図を示します。適切なタイミングで力を加えることで高くジャンプできます。動画を検証すると、ホッピングの場合、着地から離床までは、0.2秒程でした。
図5 ホッピングの模式図 |
ホッピング:
池谷直樹氏のロイター板を用いたジャンプ:
実際に身体の中で何が起こっているかはさておき、外から見て、身体全体で実践している仕事は、上述のようなものであると考えられます。身体全体をバネとして利用するためには床反力が不可欠です。床とボールの間に、まっすぐ身体が位置しなければ、弾性エネルギを蓄えることも、使い切ることもできません。これは、【協議項目:オーバーハンド・パスと床反力】でお話したとおりです。
トレーニングについて
手がバネになり、床反力を利用してボールを飛ばす感覚をつかむためには、以下のような練習があります(発案者はそれを「突きトス」と呼んでいました。「トス」と呼んでいますが、トレーニングのやり方です)。 【実際の初心者段階における指導方法について】は,こちら(ブログ)と こちら(ツイッター)にも詳しくあります.
直上突きトス:
ここでは、「直上突きトス」の力学モデルを考察し、なぜ、感じるのに有効なのかを説明します。図6に直上突きトスの力学モデルを示します。「手の平とそれに繋がったバネ」と、「膝のアクチュエータ(動力)」のみを考え、後は全部固まりだとします。図7に直上突きトスの動作の流れを示します。
※アクチュエータに関しては、「足首」のみを考えた方がスムーズに動作を実施できる場合もあるようです。 こちらも読んでください
図6 直上突きトスの力学モデル |
図7 直上突きトスの動作の流れ |
図7において、バネは伸びるときにエネルギを蓄え、縮むときにエネルギを開放するように設定しています(人間の腱と同様にしています)。
- ①,➁ボールが落下してきます。
- ③ボールにたいして身体ごと向かっていき、ボールと手が接触します。ボールの勢いと身体の勢いでバネが伸び始めます。
- ④身体とボールの勢いによるバネの伸びが最大に達し、ボールが停止します。
- ⑤バネが縮むのに合わせて思い切り床を蹴り、身体全体を「棒」のような状態にすることでボールを突き上げます。
- ⑥ボールが手から離れても、身体全体で突き上げきります(フォロースルー)。
バネが縮む瞬間にあわせて、タイミングよく膝(あるいは、足首)でボールの勢いを加えることで、ほとんど力を使わなくても簡単にボールは飛びます。このタイミングをつかんでしまえば、「突いている」に近い感覚の動作でも、外から見ると、手の平でキャッチ&スローしているように見えるはずです。最終的な結論として、オーバーハンドパスは、
「突くイメージ」
↓↓↓↓↓↓↓↓
「最適なオーバーハンドパス」(最適解)
↑↑↑↑↑↑↑↑
「持つイメージ」
というピンポイントの技術であると考えられ、「突いているわけでもなく持っているわけでもない」あるいは、「突いていると同時に持っている」と言えるのかもしれません。特異点のような状態であると考えてください。
「直上持ちトス」⇔「直上突きトス」
を繰り返せば、バネ弾性を利用して、あまり力を使わずにボールが飛ぶポイントが見つかるはずです。初期段階で、この最適なポイントを感じることができれば、身体全体を用いた異なる状況下でも、「最適なオーバーハンドパス」を感じる、試行錯誤して探索すことができると考えられ、その後の動作習得をスムーズにできると思われます。
注意していただきたいのは、「持つ」も「突く」も腕だけを用いて実現することが可能であることです。初期段階で「持ちパス」のみだけをトレーニングすると床反力を感じることが非常に難しいです。これが大人になっても腕力だけを用いたオーバーハンドパスしか実施できない状態になる原因であると考えられます。また、初期段階での「突きトス」による突き指の危険性を懸念される方もおられますが、「持ちパス」で強引に遠くへ飛ばすことを繰り返すのも、無駄な力を使い過ぎることになりますので、怪我のリスクは少なくないと考えます。初期段階で如何にスムーズに「最適なオーバーハンドパス」を感じさせてあげられるかが重要だと思われます。
適切なボールの「重さ」について
身体能力が低い,技術が未熟な場合(子供や初心者など),導入で軽いボールを使うことも有効ですが,ボールを軽くすることで感じることができない事象も存在すると考えられます。重い,軽いは,個人によって様々であり,下記のような特徴があると思われます。
軽いボール
- バネ反力を感じるのが難しい。
- 床反力を感じるのが難しい。
- 比較的安全に「突く(イメージの)」動作ができる。
- 比較的簡単にボールを飛ばせる。
重いボール
- バネ反力を感じるのが簡単である。
- 床反力を感じるのが簡単である。
- 遠くにボールを飛ばすのが難しい。
- 突き指(過伸展)の危険性が大きい。それゆえ、ボールの速度が上がりすぎないような工夫が必要である。
トレーニングを組み立てるときは、これらのことを留意し、多様な環境を準備する必要があると考えられます。