協議項目:オーバーハンド・パスと床反力

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バレーボール記事

   オーバーハンド・パスと床反力   




   三村泰成       (鶴岡高専)   




オーバーハンド・パスにおける床反力とは?

(バレーボール学会で発表した内容を元にして編集、加筆しています[1][2]


初心者のオーバーハンド・パスは、距離も出ず、正確性も乏しいケースが多く見受けられます。では、バレーボール上級者と初心者ではどこが異なるのでしょうか。ここでは、オーバーハンド・パスのときの力学現象、特に床の反作用に着目した現象を考察することで、上級者が最小限の力でボールを運んでいることを明らかとします。 まず、オーバーハンド・パスの動作を側面から撮影し、上級者と初心者を比較しました。上級者は、「床についた足」と「重心」、「ボールが飛ぶ方向」が、ほぼ一直線になりますが、これに対し、初心者は、これが一直線になりません。このことから、初心者は床反力を利用せずにボールを飛ばそうとしていることが分かります。床反力を利用せずにボールを飛ばすためには、ボールに対して大きな質量を必要とすることから、体格が大きな選手しかこの方法でボールを飛ばすことはできません。また、無理に飛ばそうと力んでしまったり、反動で体が反対方向に逃げてしまうことから、正確なパスも望めません。「床反力を利用する」ことは、バレーを行う上で最低限認識できていないといけない事項であるにもかかわらず、指導の現場であまり認識されているようには見受けられません。ただし、一般的に指導で行われている以下の事柄は、結果として「床反力を利用する」指導に繋がっています。

  • ボールの下に必ず入る。
  • ヘディングでボールを正確に飛ばせる」ということは、床反力を利用できている証である。

...など.

これらは、意図しているわけではないですが、結果として床反力を利用する指導になっています。しかしながら,意図しているわけではないので、床反力を利用しなくても、とりあえずボールを飛ばせてしまえれば、それが放置されてしまう状況も見られるようです。それゆえ、初心者の段階から、より良いと思われる技術を指導者が理解し、伝えていく努力が必要です。


バレーボール研究第15巻第1号,p.78,(2013)


バレーボール学会で発表したときのポスターです。

ファイル:Jsvr 20130223 poster mimura takano.pdf←PDFファイルはこちらから直接見ることができます。


同じく、発表のときに用いた動画です。

バランスボールとバレーボールを使った床反力動画です。


ジャンプ・セットのときの床反力は?

ここでは、ジャンプ・セットのときの反力を考えてみます。空中に浮いているので、もちろん、床反力はありません。下図はジャンプ・セット時の状態の模式図です。赤矢印はボールを飛ばすための力ベクトルの方向です。これをここでは「力線」と呼ぶことにします。まず、力線が重心を通る場合を考えます。ボールを飛ばす瞬間に、その反動で逆方向に身体は移動しますが、身体のブレを最小限に抑えてボールに力を伝えることができます。これに対して、力線が重心を通らない場合を考えてみましょう。身体が逆方向に移動するのに加えて、モーメント(回転力)が発生し、ボールを飛ばす方向とは逆方向に身体は大きく逃げてしまうはずです。これでは、効率的にボールに力を伝えることもできませんし、正確にボールコントロールすることも難しくなります。


バスケットボールでは、フェイダウェイのように後方に身体を逃がしながらシュートを打つ技術があります。しかしながら、相手選手はネットの向こう側にしかいないバレーボールでは、「身体を後方に逃がしながらセットする」という状況は発生しにくいかもしれません。


Jump set and mass center.png
  ジャンプ・セットのときの力線と重心の関係


以下にジャンプ・セットの力線が綺麗に重心を通っていると思われる、セッター(名選手)の動画をいくつか紹介します。


  リカルド・ガルシア(Ricardo Garcia)
  ニコラ・グルビッチ(Nicola Grbic)
  ラファエル(Raphael Vieira De Oliveira)
  Mikko Esko

地球との関係

ここでは、ちょっとスケールを大きくして、床反力が地球に及ぼす影響を考えてみます。下図のようにボールによって押される力を全て床反力で受け止めれた場合を考えます。地球は宇宙空間に浮いていますので、反動で少しだけ逆方向に移動しているはずです。しかしながら、地球の質量は、人やボールよりも圧倒的に大きいので、検知できないほどの小さな移動であると考えられます。おそらく、現在の技術では、この移動量を検知するのは不可能です(バレーボール以外にも、あちこちで、ドタバタやってますし...)。とにかく、質量が大きいほど移動量が少ないと考えてください。地球の質量は無限大とみなすことができ、移動量は零であるとみなすことができます。


それでは、床反力を利用しない場合、あるいは、ジャンプ・セットで力線が重心を通らない場合は、どのような選手だとボールを飛ばせるのかを考えてみます。ボールの反動で身体のブレが少なくなるためには、できるだけ質量が大きく、慣性モーメントが大きい方が有利となります。つまり、体重が重く、身長が高い選手ほど、床反力や重心を利用しなくても、ボールが飛ばせるということになります。ただ、身体のブレは少なからず発生するので、正確性は低下するはずですし、難しい技術になるはずです。

<注>体重が軽い、身長が低い成長過程の選手には、必ず身体のどこかに無理が生じることから、力線をちゃんと形成できるように導いてあげることが望まれます。

Earth and overpass.png
  地球と反力の関係

床反力を感じるための練習

「床反力を利用するオーバーハンド・パス」の感覚を初心者に意識させるメニューのひとつ「突きトス」です。

  • 肘の曲げ伸ばしはしない。
  • 手首もできるだけ固定。
  • 膝の曲げ伸ばしも最小限とする。

という動作で、直上パスを繰り返します。床反力をタイミングよく利用しないと続けることができないような動作となっています。まずは、床反力を感じることが大切であると考えられます。 【実際の初心者段階における指導方法について】は,こちら(ブログ)こちら(ツイッター)にも詳しくあります.

  直上突きトス

参考文献

  1. オーバーハンドパスにおけるボールを飛ばす要因についての一考察,バレーボール研究第15巻第1号,p.78,(2013)
  2. バレーボール学会機関誌のページ


外部リンク