協議項目:レセプションとアタックの関係

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レセプションとアタックの関係

 バレーボールでは、良いサーブ・レシーブ(レセプション)を返すことが良い攻撃につながり、結果としてアタック決定率が高くなると考えられています。

 ところが、データを見てみるとこのレセプションとアタックの関係はまた違った関係が見えてきます。データを以下の図1-1に示します。


アタック×レセプション 図1-1.png

 このデータは、Vプレミアリーグ男子の2006/07大会から2013/14大会までのレギュラーラウンド全試合のレセプション成功率とアタック決定率を示したものです。右に行くほどレセプションの成功率が高く、上にいくほどアタック決定率が高くなります。図中の破線はそれぞれの平均値を示しています。

 アタックにとってレセプションが重要であれば、レセプション成功率が低ければアタック決定率も低くなり、レセプション成功率が高ければアタック決定率も高くなるはずです。しかし、図1-1のデータを見るとそうはなっていません。レセプション成功率が高くても、アタック決定率の高い場合もあれば低い場合もあることをこのデータは示しています。

 こうしたレセプション成功率とアタック決定率の関係を数値で表したのが図中の相関係数という値です。この値が1.000に近づくほど、レセプション成功率とアタック決定率との間には強い関連があることを示すのですが、図1-1の相関係数はほとんど関連が無いといって良い値です。

 補足というわけではないですが、図1-1のデータを別の角度から見たデータを以下の図に示します。

アタック×レセプション 図.jpg

 こちらのほうがレセプション成功率が変化してもアタック決定率がほとんど変わらないことを確認できるでしょうか?  このデータの元となっているデータを以下の表に示します。

アタック×レセプション 表.jpg

※この図表は 『 テンポ 』 を理解すれば 、 誰でも簡単に実践できる !! 世界標準のバレーボールに提供したものです。

チームの特色

 このようなレセプション成功率とアタック決定率との関係について、先日興味深い指摘がありました。「[1]アタック決定率は、レセプションに依存しないのか?」という記事です。

 この記事では、レセプション成功率とアタック決定率との間に相関が認められない原因を、

“レセプションに依存するチームと依存しないチームがあって、全体で平均を取って「相関がない」というデータになっている。”

 と指摘しています。確かに、図1-1のデータはVプレミアリーグ2006/07大会から2013/14大会までの852試合1704チーム分のデータをまとめたものです。これだけデータがたくさんになると、レセプションに依存するチームが中にはあったとしても、群衆(データ群)の中に埋もれてしまっている可能性は考えられます。

 この指摘は、仮説としては面白いものだと思います。ただ、実際にアタックがレセプションに依存するチームがどれくらいあるのかということについては検証されていません。

 そこで今回は、チームごとにレセプション成功率とアタック決定率の関係を分析し、この仮説を検証してみようと思います。仮説が正しければ、以下の図1-2に示す緑枠の中にデータが収まるような相関の高いチームが見つかるはずです。

アタック×レセプション 図1-2.png


データを見る前に

 今回のデータは、JVISと呼ばれるVリーグの帳票データを使って分析します。このデータにはちょっと問題があります。JVISのアタックのデータは、サーブレシーブからのレセプションアタックと、その後のラリーからのトランジションアタックの成績の合計となっています。できればレセプションの成功率と、レセプションからのアタック決定率の関係を見たいのですが、トランジションアタックの成績が邪魔をしているわけです。

 しかし、以下の図2のデータを見てください。

アタック×レセプション 図2.png

 これは、Vプレミア男子2010/11大会から2013/14大会までのVスコア(ライブスコア)から、レセプションの成功率とレセプションアタックの決定率の関係をまとめたものです。図1-1のデータからトランジションアタックのデータを除いたものと考えてもらえれば大丈夫です。データを見ると、相関係数は図1-1と比較して少し高くなっていますが、レセプションの成功率とアタックとの間に関連があるとはいえない結果です。

 このデータから何がいえるかというと、図1-1のデータの段階で、レセプションの成功率とアタックの関係を概ね反映していたということです。JVISデータの分析結果の値よりも少し高めの相関係数がトランジションアタックの影響を除いた値と考えて大丈夫だと思います。

 図2で使用したVスコアのデータを使った方が良いかと思われるかもしれませんが、このデータには何試合かの欠損があり、チーム単位で見た場合、データが不揃いになるチームが出てきます。チーム単位のデータを見ることが今回の主目的なので、これは良くありません。そこで今回は、多少誤差はありますが、JVISデータを使って分析したいと思います。


チームごとに見たレセプションとアタックの関係

 前置きが長くなってしまいましたが、チームごとのデータの例として2013/14大会よりパナソニックのデータを以下の図3-1に示します。

アタック×レセプション 図3-1.png

 図中に青●で示したのがパナソニックのデータです。パナソニックのレセプション成功率とアタック決定率の相関係数は0.272です。一応関連があるとはいえますが、弱い関係です。

 他の7チームのデータについては、文中に全部を掲載すると冗長になりますので、記事の末尾に示します(図3-2~図3-8)。これら7チームの相関係数を見ると、パナソニックと同じく、ほとんど関連がないといって良い結果です。相関係数が最も高いのは図3-4の東レですが、それでも関連の強さとしては弱いレベルです。しかも、負の相関関係なので、レセプション成功率が低いほどアタック決定率が高いという結果になっています。

 この東レのデータから、レセプション成功率が低いほうが良いと極論するつもりはありません。1シーズン30試合ほどのデータ数の場合、たまたまレセプション成功率が低くてもアタック決定率が高い試合が数試合あればこのような結果になることがあるからです。

 しかし、これらのデータから男子の2013/14大会において、レセプション成功率に依存しているチームがあったとはいえないと思います。とはいえ、1シーズン8チームだけの結果で物事を判断するのは危険です。そこで、2006/07大会から2013/14大会までの男子64チーム、女子70チームで同じようにレセプション成功率とアタック決定率の相関分析を行いました。分析結果より、相関係数を整理したものを以下の表1に示します。

アタック×レセプション 表1.png

 この表は、例えば男子で相関係数が0.40から0.50の範囲に該当するチームは2チームだったというようにデータを見ます。データを見てわかるのは、大半のチームが相関の強さでいうと、ほとんど関係がないという部類に該当します。

ただし、このデータにはトランジションアタックも含まれるため、実際のレセプションアタックとの関連を分析した場合、表1で示した相関係数よりは少し高めの値となると考えたほうが良いでしょう。しかし、多少相関係数が高くなったところで、大半のチームの相関はほとんどないか、ごく弱いレベルに収まるのではないかと考えられます。

 相関係数がどのくらいになれば、「このチームのアタックはレセプションに依存している」ということを示す明確な定義は難しいのですが、レセプション成功率とアタック決定率の間に強い相関のあるチームは皆無で、中程度の相関があるチームはごく少数あるというのがデータの示すところです。

 レセプションに依存とまではいかないまでも、レセプションが重要であるチームは少数ながら存在するといってより結果ですが、

“レセプションに依存するチームと依存しないチームがあって、全体で平均を取って「相関がない」というデータになっている。”

 というよりは、

“大半のチームはレセプションには依存しておらず、稀にレセプションが重要であるチームが存在する”

 というのが正しいと思います。


まとめ

 レセプション成功率とアタック決定率の間に相関が認められないのは、レセプションに依存するチームと依存しないチームが混在しているためだという仮説に対して、今回の分析結果は、大半のチームでレセプション成功率とアタック決定率の間には関連が無いことを示すものでした。残念ながらデータが混在しているという仮説はいささか論理に飛躍があったといえます。

 結局のところ、チームごとにデータを見ても、レセプション成功率とアタック決定率の間に関連が認められなかったということは、

アタックは、レセプションに依存することなくチームの力が反映される。(ただし、それが選手個人の能力なのか、チームの攻撃組織の力なのかはわからない)

Aパスの割合ではなく、BパスやCパスの割合が実は重要である。

 といった可能性が考えられます。ただし、今回の分析結果も完全なものとはいえません。切り口を変えてデータを見れば、また違った結果が見えてくる可能性は十分考えられます。

 完全無欠のデータというものは誰にも用意できないので、レセプション成功率とアタック決定率の関係を正しく理解するためには、議論と検証を重ねていくしかありません。今回の分析結果もその積み重ねの1つに過ぎないと思います。今回の分析をきっかけに、さらに議論と検証が発展し、より有益な情報が現場へとフィードバックされることを願います。


Vプレミアリーグ2013/14大会 男子7チームのデータ

アタック×レセプション 図3-2.png アタック×レセプション 図3-3.png アタック×レセプション 図3-4.png アタック×レセプション 図3-5.png アタック×レセプション 図3-6.png アタック×レセプション 図3-7.png アタック×レセプション 図3-8.png


引用データ

 ・Vリーグオフィシャルサイト