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バレーボール記事

   「二段トス」の語源(COLUMN)   




   橋本吉登       (日本バレーボール学会理事)   



時代と共に「二段」の意味は失われた


 「二段トス」という言葉はバレーボールでよく使われる言葉です。最近の指導者には「サーブ・レシーブやスパイク・レシーブが乱れたときに、コートの後方やコートの外からスパイカーに持っていくロングトスのこと」という解説があります。しかし、二段トスの「二」や「段」の意味は解説からは読み取れません。  昭和初期の指導書を見ても「二段トス」という言葉は出てきませんが、「段」の字に関しては「三段返し」「三段戦法」という言葉がよく出てきます。三段戦法の解説に『三回目すなわち最後のボール接触の時を以て攻撃を行うものである』(『排球人の手記』1940年/砂田保著)とあるように初期のころは攻撃時のボールへ触れる回数を「一段、二段、三段」と「段」という単位で数えていたことがわかります。「段」と「攻撃(戦法)」という言葉を組み合わせることで、


・一段攻撃(戦法) 相手からの返球を直接、攻撃すること。ダイレクト・アタック。


・二段攻撃(戦法) 相手からの返球をパス→スパイクの2回目で攻撃すること。


・三段攻撃(戦法) 相手からの返球をパス→トス→スパイクの3回目で攻撃すること。 という用語が生まれてきました。


 バレーボールが今も昔もパス→トス→スパイクの三段攻撃が基本です。しかし、セッターがトスを上げると見せかけて攻撃するツー・アタックのような相手の虚をつく攻撃も有効です。十分に三段攻撃が行えるボールに対して“あえて”後衛から送られてきた一段目のボールを前衛(中衛)が攻撃するという二段攻撃が戦術として生まれてきました。後衛が上げるボールですから、当然「コートの後方から」上がる場合が多くなります。二段攻撃が「後方からのボールを打つ」というイメージで生まれたのは自然な成り行きです。

 二段攻撃の用語はこのような変化を狙って行う攻撃だけでなく、味方のブロックがボールに触れてはじかれたボールをほかのプレーヤーがトスを上げる場合にも使われていました。現在の6人制バレーボールでは味方のブロックのファースト・タッチをカウントしませんが、9人制や以前の6人制では1回としてカウントしていました。味方がブロックでワンタッチをすればそのあとは2回しかボールに触れることができません。タッチ後の残りの二段で行う攻撃だったので「二段攻撃」と呼ばれました。「ブロック→パス→スパイクであれば味方は3回ボールに触っているので『三段攻撃』ではないでしょうか?」という疑問を持った人がいるかもしれません。ブロック(ストップ)は元来、守備のプレーであるので“攻撃”の段数にはカウントされないという決まりがあります。攻撃はあくまでもブロック後の2回で行われるので、二段攻撃となるのです。このようなプレーでは「コート外からのボール」であったり、「セッター以外の選手がトスを上げる」ことが多く、この2つのイメージも現在の「二段トス」に含まれることとなりました。

 二段攻撃に派生して「二段攻撃のためのトス」という意味合いで二段トスの語が生まれてきたようです。

 『排球の過渡期にあってはパス、トス、キルの所謂三段戦法が用いられたのであるが、この型を破ったものがこの二段トスである。即ち中衛若しくは後衛が相手方より飛来したボールを前衛にパスするような恰好をしながら、直ちに中衛両サイドにトスして打たす事である。この攻撃を追い打ちと言う。この二段トスは前述のごとく、計画的に行う場合とやらざるを得ない場合とがある』(『籠球・排球』1948年/前田豊著)という記載があります。「計画的」と書いてあるのが、変化攻撃としての二段攻撃で「やらざるを得ない」と書いてあるのが、ブロックなどのワンタッチ・ボール後の二段攻撃です。

 ルールの変遷と言葉遣いの変化により、二段トスの持っていた「二」も「段」も意味をなさなくなってしまっています。しかし、「コートの後方」あるいは「コート外」から、「セッター以外の人間も含めて」トスを上げて攻撃に結び付けるプレーは随所に見られます。「二段トス」という言葉のあとに同様のプレーを表す言葉が生まれなかったので、いまだにこの言葉が使われているのです。