「固定項目:フロント・オーダーとバック・オーダーの特性(COLUMN)」の版間の差分

提供: e-Volleypedia(eバレーペディア)
移動: 案内検索
(本文記入)
 
(2人の利用者による、間の20版が非表示)
行2: 行2:
  
 
[[カテゴリ:COLUMN]]
 
[[カテゴリ:COLUMN]]
 +
[[カテゴリ:索引]]
 +
{{DEFAULTSORT:フロントオーダートバックオーダーノトクセイ}}
  
 
 バレーボールでは、オーダー(配列)を決めないことには、ゲームを開始できません。その意味でオーダー(配列)の決定は、ゲームが成立するための根幹に関わる要素です。一方で、オーダー(配列)決定後に、6つあるローテーションの中でどのローテーションからスタートするかは、そのチームの戦略的意図が強く反映される部分であり、ゲームの勝敗を左右する要素でもあります。従って、プレーする上でもゲームを観戦する上でも、フロント・オーダーとバック・オーダーの、それぞれの特性を知っておくことは、極めて有用な知識と言えるでしょう。
 
 バレーボールでは、オーダー(配列)を決めないことには、ゲームを開始できません。その意味でオーダー(配列)の決定は、ゲームが成立するための根幹に関わる要素です。一方で、オーダー(配列)決定後に、6つあるローテーションの中でどのローテーションからスタートするかは、そのチームの戦略的意図が強く反映される部分であり、ゲームの勝敗を左右する要素でもあります。従って、プレーする上でもゲームを観戦する上でも、フロント・オーダーとバック・オーダーの、それぞれの特性を知っておくことは、極めて有用な知識と言えるでしょう。
行7: 行9:
 
 一般的には、フロント・オーダーよりバック・オーダーの方が優れているとされています。それはなぜでしょうか?
 
 一般的には、フロント・オーダーよりバック・オーダーの方が優れているとされています。それはなぜでしょうか?
  
① 初心者段階では・・・
+
== ①初心者段階におけるフロント・オーダーの欠点 ==
 フロント・オーダーにおけるS1のローテーションは(図1)、S6のローテーションは(図2)のようになります。いずれのローテーションにおいても、レセプションの場面では、ポジショナル・フォールトの制約上、相手チームのサーブが打たれる瞬間にはライトの選手(R)がレフトの選手(L)よりも左(レフト)側に位置しなければなりません。そのため、フォーメーション上で何がしかの工夫をしない限り、本来ライトからの攻撃が得意であるはずのライトの選手(R)がレフト側から、レフトからの攻撃が得意であるはずのレフトの選手(L)がライト側から、それぞれ攻撃する必要が出てきます。これは、ポジションの専門性という観点から見て、非常に不都合です。一方、バック・オーダーでも、S1のローテーションで(図3)のとおり、レセプションの場面でライトの選手(R)がレフト側から、レフトの選手(L)がライト側から攻撃する必要が出ますが、このようなポジションの専門性から見て不都合なローテーションが、6つあるローテーションの中で、このS1のローテーションただ1つしかありません。フロント・オーダーではS1とS6の2つのローテーションでこの不都合が生じるため、この点がフロント・オーダーよりバック・オーダーが優れているとされる、第一の理由です。特に、初心者段階であればあるほど、各選手が主としてプレーするポジション以外の場所から攻撃することが難しいでしょうし、レセプション・フォーメーションの工夫を凝らすことも難しいであろうことも考え併せると、初心者段階こそフロント・オーダーはお勧めできないと言えます。
+
  
② トップレベルでは・・・
+
 フロント・オーダーにおけるS1のローテーションは<図1>、S6のローテーションは<図2>のようになります。
 一方、各選手がどこからでも攻撃が可能なトップレベルにおいてはどうでしょうか? 実は、トップレベルにおいてもほとんどのチームが、やはりバック・オーダーを採用しています。それは上記の理由以外にもう一つ決定的な理由があり、それはS5のローテーションにおけるレセプション・フォーメーションに鍵があります。
+
  
 このローテーションにおいて、フロント・オーダーでは(図4)、バック・オーダーでは(図5)のように各選手が並びます。トップレベルにおいては、攻撃力を高めるためにレセプションを担当する選手の人数を極力減らそうとするのが一般的で、主にレフトの選手(L)2人と後衛センターが交代しているリベロ(C(LB))の3人で、レセプションを担当するのが一般的です。実は、S5のローテーションは、セッターがセットアップ定位置へ向かうのが最も難しいローテーションです。なぜなら距離が遠いだけでなく、(レフト側を向いてセットするという前提において)セットアップ定位置に向かう間に、相手のサーブの軌道を見ながら体を右回りに270°ほど回転させる必要があるからです。このS5のローテーションで相手チームにスパイク・サーブを打たれた場合、セッターがセットアップ定位置へ向かうだけの時間的余裕がなくなる恐れが高く、そのためレセプション・フォーメーションにおいては、セッターがセットアップ定位置に移動しやすいような工夫が必要になります。その観点で考えるとバック・オーダーでは、相手チームのサーブが打たれる瞬間には、セッター(S)は前衛センター(©)の選手よりも後ろに位置する必要がありますが、レセプションに参加しない前衛センター(©)の選手をネット際に構えさせることで(図6)のとおり、セッター(S)もネット近くからセットアップ定位置に向かうことが可能になります。一方フロント・オーダーでは、相手チームのサーブが打たれる瞬間には、セッター(S)が前衛レフトの選手(L○)よりも後ろに位置する必要がありますが、前衛レフトの選手(L○)はレセプションに参加するためコート後方に構えざるを得ず、前衛レフトの選手(L○)より前に出られないセッター(S)は(図7)のとおり、コート後方からセットアップ定位置に向かわざるを得なくなるため、リスクが高いと考えられます。ですから、トップレベルにおいてフロント・オーダーを採用しているチームは、滅多に見られません。
+
[[ファイル:S1(フロント・オーダー).jpg|360px]] [[ファイル:S6(フロント・オーダー).jpg|360px]]
  
 このように、初心者段階においてもトップレベルにおいても、フロント・オーダーよりバック・オーダーの方が有利なのは確かです。しかし、初心者段階のゲームでは、この両者の特性が理解されていないためか、フロント・オーダーを採用しているチームも多いように見受けられます。一方、トップレベルのゲームでフロント・オーダーを採用しているチームは、この両者の特性を理解した上で、敢えてフロント・オーダーの欠点を逆利用しているケースがほとんどです。フロント・オーダーを採用してうまく成功した例としては、2004年アテネオリンピック最終予選(OQT)を1位で通過した日本女子ナショナルチームが挙げられます。レフトからの攻撃が得意な高橋みゆき選手をライトに、ライトからの攻撃が得意な木村沙織選手をレフトに配することで、フロント・オーダーの①の欠点をカバーしつつ、低身長の高橋みゆき選手とセッターの竹下佳江選手が、2人揃って前衛となるローテーションを避けることに成功し、さらに②の欠点については、S5のローテーションでレフトの栗原恵選手をレセプションに参加させないことでカバーしていました。男子でも、東海大学が敢えてフロント・オーダーを採用し、第55回(2006年)黒鷲旗全日本男女選抜大会で、見事に準優勝を果たしています。いずれも、チーム内に特殊性を持った選手が複数いることを最大限に活かす方法として、敢えてフロント・オーダーを採用しており、綿密な計算の下で採られた戦術であると言えます。但し、その特殊性を持った選手が故障や不調で交代せざるを得なくなった場合に、代わりの選手が同じ役割を果たせないと、途端にフロント・オーダーの欠点が露呈してしまうため、チーム戦術がその特殊性を持った選手に依存したものになりがちであり、その点に注意が必要です。
+
 いずれのローテーションにおいても、レセプションの場面では、ポジショナル・フォールトの制約上、相手チームのサーブが打たれる瞬間にはオポジットの選手(OP)がウイング・スパイカーの選手(WS)よりも左(レフト)側に位置しなければなりません。そのため、フォーメーション上で何がしかの工夫をしない限り、本来ライトからの攻撃が得意であるはずのオポジットの選手(OP)がレフト側から、レフトからの攻撃が得意であるはずのウイング・スパイカーの選手(WS)がライト側から、それぞれ攻撃する必要が出てきます。これは、ポジションの専門性という観点から見て、非常に不都合です。
 +
 
 +
 一方、バック・オーダーでも、S1のローテーションで<図3>のとおり、レセプションの場面でオポジットの選手(OP)がレフト側から、ウイング・スパイカーの選手(WS)がライト側から攻撃する必要が出ますが、このようなポジションの専門性から見て不都合なローテーションが、6つあるローテーションの中で、このS1のローテーションただ1つしかありません。
 +
 
 +
[[ファイル:S1(バック・オーダー).jpg|360px]]
 +
 
 +
 フロント・オーダーではS1とS6の2つのローテーションでこの不都合が生じるため、この点がフロント・オーダーよりバック・オーダーが優れているとされる、第一の理由です。特に、初心者段階であればあるほど、各選手が主としてプレーするポジション以外の場所から攻撃することが難しいでしょうし、レセプション・フォーメーションの工夫を凝らすことも難しいであろうことも考え併せると、初心者段階こそフロント・オーダーはお勧めできないと言えます。
 +
 
 +
== ②トップ・レベルにおけるフロント・オーダーの欠点 ==
 +
 
 +
 一方、各選手がどこからでも攻撃が可能なトップ・レベルにおいてはどうでしょうか? 実は、トップ・レベルにおいてもほとんどのチームが、やはりバック・オーダーを採用しています。それは上記の理由以外にもう一つ決定的な理由があり、それはS5のローテーションにおけるレセプション・フォーメーションに鍵があります。
 +
 
 +
 このローテーションにおいて、フロント・オーダーでは<図4-1>、バック・オーダーでは<図5-1>のように各選手が並びます。
 +
 
 +
[[ファイル:S5(フロント・オーダー).jpg|360px]] [[ファイル:S5(バック・オーダー).jpg|360px]]
 +
 
 +
 トップ・レベルにおいては、攻撃力を高めるためにレセプションを担当する選手の人数を極力減らそうとするのが一般的で、主にウイング・スパイカーの選手(WS)2人と後衛センターが交代しているリベロ(Li)の3人で、レセプションを担当するのが一般的です。
 +
 
 +
 実は、S5のローテーションは、セッターがセット・アップ定位置へ向かうのが最も難しいローテーションです。なぜなら距離が遠いだけでなく(レフト側を向いてセットするという前提において)セット・アップ定位置に向かう間に、相手のサーブの軌道を見ながら体を右回りに270°ほど回転させる必要があるからです。このS5のローテーションで相手チームにスパイク・サーブを打たれた場合、セッターがセット・アップ定位置へ向かうだけの時間的余裕がなくなる恐れが高く、そのためレセプション・フォーメーションにおいては、セッターがセット・アップ定位置に移動しやすいような工夫が必要になります。
 +
 
 +
[[ファイル:S5(フロント・オーダー)におけるレセプション・フォーメーション.jpg|360px]] [[ファイル:S5(バック・オーダー)におけるレセプション・フォーメーション.jpg|360px]]
 +
 
 +
 その観点で考えるとバック・オーダーでは、相手チームのサーブが打たれる瞬間には、セッター(S)は前衛ミドル・ブロッカー(MB)の選手よりも後ろに位置する必要がありますが、レセプションに参加しない前衛ミドル・ブロッカー(MB)の選手をネット際に構えさせることで<図5-2>のとおり、セッター(S)もネット近くからセット・アップ定位置に向かうことが可能になります。
 +
 
 +
 一方フロント・オーダーでは、相手チームのサーブが打たれる瞬間には、セッター(S)が前衛ウイング・スパイカーの選手(WS)よりも後ろに位置する必要がありますが、前衛ウイング・スパイカーの選手(WS)はレセプションに参加するためコート後方に構えざるを得ず、前衛ウイング・スパイカーの選手(WS)より前に出られないセッター(S)は<図4-2>のとおり、コート後方からセット・アップ定位置に向かわざるを得なくなるため、リスクが高いと考えられます。ですから、トップ・レベルにおいてフロント・オーダーを採用しているチームは、滅多に見られません。
 +
 
 +
== フロント・オーダーとバック・オーダーの特性 ==
 +
 
 +
 このように、初心者段階においてもトップ・レベルにおいても、フロント・オーダーよりバック・オーダーの方が有利なのは確かです。しかし、初心者段階のゲームでは、この両者の特性が理解されていないためか、フロント・オーダーを採用しているチームも多いように見受けられます。
 +
 
 +
 一方、トップ・レベルのゲームでフロント・オーダーを採用しているチームは、この両者の特性を理解した上で、敢えてフロント・オーダーの欠点を逆利用しているケースがほとんどです。フロント・オーダーを採用してうまく成功した例としては、2004年アテネ・オリンピック最終予選(OQT)を1位で通過した日本女子ナショナル・チームが挙げられます。レフトからの攻撃が得意な高橋みゆき選手をオポジットに、ライトからの攻撃が得意な木村沙織選手をウイング・スパイカーに配することで、フロント・オーダーの①の欠点をカバーしつつ、低身長の高橋みゆき選手とセッターの竹下佳江選手が、2人揃って前衛となるローテーションを避けることに成功し、さらに②の欠点については、S5のローテーションでウイング・スパイカーの栗原恵選手をレセプションに参加させないことでカバーしていました。男子でも、東海大学が敢えてフロント・オーダーを採用し、第55回(2006年)黒鷲旗全日本男女選抜大会で、見事に準優勝を果たしています。
 +
 
 +
 いずれも、チーム内に特殊性を持った選手が複数いることを最大限に活かす方法として、敢えてフロント・オーダーを採用しており、綿密な計算の下で採られた戦術であると言えます。但し、その特殊性を持った選手が故障や不調で交代せざるを得なくなった場合に、代わりの選手が同じ役割を果たせないと、途端にフロント・オーダーの欠点が露呈してしまうため、チーム戦術がその特殊性を持った選手に依存したものになりがちであり、その点に注意が必要です。

2015年2月25日 (水) 20:53時点における最新版

バレーボール記事

   フロント・オーダーとバック・オーダーの特性(COLUMN)   




   渡辺寿規       (バレーペディア編集委員)   




 バレーボールでは、オーダー(配列)を決めないことには、ゲームを開始できません。その意味でオーダー(配列)の決定は、ゲームが成立するための根幹に関わる要素です。一方で、オーダー(配列)決定後に、6つあるローテーションの中でどのローテーションからスタートするかは、そのチームの戦略的意図が強く反映される部分であり、ゲームの勝敗を左右する要素でもあります。従って、プレーする上でもゲームを観戦する上でも、フロント・オーダーとバック・オーダーの、それぞれの特性を知っておくことは、極めて有用な知識と言えるでしょう。

 一般的には、フロント・オーダーよりバック・オーダーの方が優れているとされています。それはなぜでしょうか?

①初心者段階におけるフロント・オーダーの欠点

 フロント・オーダーにおけるS1のローテーションは<図1>、S6のローテーションは<図2>のようになります。

S1(フロント・オーダー).jpg S6(フロント・オーダー).jpg

 いずれのローテーションにおいても、レセプションの場面では、ポジショナル・フォールトの制約上、相手チームのサーブが打たれる瞬間にはオポジットの選手(OP)がウイング・スパイカーの選手(WS)よりも左(レフト)側に位置しなければなりません。そのため、フォーメーション上で何がしかの工夫をしない限り、本来ライトからの攻撃が得意であるはずのオポジットの選手(OP)がレフト側から、レフトからの攻撃が得意であるはずのウイング・スパイカーの選手(WS)がライト側から、それぞれ攻撃する必要が出てきます。これは、ポジションの専門性という観点から見て、非常に不都合です。

 一方、バック・オーダーでも、S1のローテーションで<図3>のとおり、レセプションの場面でオポジットの選手(OP)がレフト側から、ウイング・スパイカーの選手(WS)がライト側から攻撃する必要が出ますが、このようなポジションの専門性から見て不都合なローテーションが、6つあるローテーションの中で、このS1のローテーションただ1つしかありません。

S1(バック・オーダー).jpg

 フロント・オーダーではS1とS6の2つのローテーションでこの不都合が生じるため、この点がフロント・オーダーよりバック・オーダーが優れているとされる、第一の理由です。特に、初心者段階であればあるほど、各選手が主としてプレーするポジション以外の場所から攻撃することが難しいでしょうし、レセプション・フォーメーションの工夫を凝らすことも難しいであろうことも考え併せると、初心者段階こそフロント・オーダーはお勧めできないと言えます。

②トップ・レベルにおけるフロント・オーダーの欠点

 一方、各選手がどこからでも攻撃が可能なトップ・レベルにおいてはどうでしょうか? 実は、トップ・レベルにおいてもほとんどのチームが、やはりバック・オーダーを採用しています。それは上記の理由以外にもう一つ決定的な理由があり、それはS5のローテーションにおけるレセプション・フォーメーションに鍵があります。

 このローテーションにおいて、フロント・オーダーでは<図4-1>、バック・オーダーでは<図5-1>のように各選手が並びます。

S5(フロント・オーダー).jpg S5(バック・オーダー).jpg

 トップ・レベルにおいては、攻撃力を高めるためにレセプションを担当する選手の人数を極力減らそうとするのが一般的で、主にウイング・スパイカーの選手(WS)2人と後衛センターが交代しているリベロ(Li)の3人で、レセプションを担当するのが一般的です。

 実は、S5のローテーションは、セッターがセット・アップ定位置へ向かうのが最も難しいローテーションです。なぜなら距離が遠いだけでなく(レフト側を向いてセットするという前提において)セット・アップ定位置に向かう間に、相手のサーブの軌道を見ながら体を右回りに270°ほど回転させる必要があるからです。このS5のローテーションで相手チームにスパイク・サーブを打たれた場合、セッターがセット・アップ定位置へ向かうだけの時間的余裕がなくなる恐れが高く、そのためレセプション・フォーメーションにおいては、セッターがセット・アップ定位置に移動しやすいような工夫が必要になります。

S5(フロント・オーダー)におけるレセプション・フォーメーション.jpg S5(バック・オーダー)におけるレセプション・フォーメーション.jpg

 その観点で考えるとバック・オーダーでは、相手チームのサーブが打たれる瞬間には、セッター(S)は前衛ミドル・ブロッカー(MB)の選手よりも後ろに位置する必要がありますが、レセプションに参加しない前衛ミドル・ブロッカー(MB)の選手をネット際に構えさせることで<図5-2>のとおり、セッター(S)もネット近くからセット・アップ定位置に向かうことが可能になります。

 一方フロント・オーダーでは、相手チームのサーブが打たれる瞬間には、セッター(S)が前衛ウイング・スパイカーの選手(WS)よりも後ろに位置する必要がありますが、前衛ウイング・スパイカーの選手(WS)はレセプションに参加するためコート後方に構えざるを得ず、前衛ウイング・スパイカーの選手(WS)より前に出られないセッター(S)は<図4-2>のとおり、コート後方からセット・アップ定位置に向かわざるを得なくなるため、リスクが高いと考えられます。ですから、トップ・レベルにおいてフロント・オーダーを採用しているチームは、滅多に見られません。

フロント・オーダーとバック・オーダーの特性

 このように、初心者段階においてもトップ・レベルにおいても、フロント・オーダーよりバック・オーダーの方が有利なのは確かです。しかし、初心者段階のゲームでは、この両者の特性が理解されていないためか、フロント・オーダーを採用しているチームも多いように見受けられます。

 一方、トップ・レベルのゲームでフロント・オーダーを採用しているチームは、この両者の特性を理解した上で、敢えてフロント・オーダーの欠点を逆利用しているケースがほとんどです。フロント・オーダーを採用してうまく成功した例としては、2004年アテネ・オリンピック最終予選(OQT)を1位で通過した日本女子ナショナル・チームが挙げられます。レフトからの攻撃が得意な高橋みゆき選手をオポジットに、ライトからの攻撃が得意な木村沙織選手をウイング・スパイカーに配することで、フロント・オーダーの①の欠点をカバーしつつ、低身長の高橋みゆき選手とセッターの竹下佳江選手が、2人揃って前衛となるローテーションを避けることに成功し、さらに②の欠点については、S5のローテーションでウイング・スパイカーの栗原恵選手をレセプションに参加させないことでカバーしていました。男子でも、東海大学が敢えてフロント・オーダーを採用し、第55回(2006年)黒鷲旗全日本男女選抜大会で、見事に準優勝を果たしています。

 いずれも、チーム内に特殊性を持った選手が複数いることを最大限に活かす方法として、敢えてフロント・オーダーを採用しており、綿密な計算の下で採られた戦術であると言えます。但し、その特殊性を持った選手が故障や不調で交代せざるを得なくなった場合に、代わりの選手が同じ役割を果たせないと、途端にフロント・オーダーの欠点が露呈してしまうため、チーム戦術がその特殊性を持った選手に依存したものになりがちであり、その点に注意が必要です。