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 最近、バレーボールのポジション用語が劇的に変化しています。これまで日本で定着していた「スーパーエース」に代わり、国際的に通用する「オポジット」という用語が、元々「ライト」と呼ばれたポジションを表す用語として、ようやくテレビ中継でも使われ始めました。しかし、それが意味するところまでを理解するには、世界トップレベルのバレーボール戦術が辿った歴史的背景を眺める必要があります。
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◎〝分業システム〟の導入過程で、「スーパーエース」という用語が招いた弊害
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 「スーパーエース」という用語が日本で生まれたきっかけは、1980年代のアメリカ男子ナショナルチームが導入した革新的な〝分業システム〟にありました。レセプションをレフトの選手2人だけで行い、センターとライトの選手がそれ以外のプレーに専念できる環境を作ったのです。その結果、ライトの選手が前衛・後衛を問わず攻撃を仕掛け、文字通り〝スーパーエース〟の役割を果たせるようになりました。アメリカがロサンゼルス・ソウルと五輪2連覇を達成すると、〝分業システム〟は世界各国へ浸透していきましたが、この過程において日本では、レセプションを得意とする器用なセンターの選手がレフトへ、攻撃力はあってもレセプションの苦手なレフトの選手がライトへ、一斉にコンバートされるという現象が起きました。分業によって「各選手が苦手なプレーを行わずに済む」ため、世界に通用する〝スーパーエース〟を手っ取り早く生み出せる、という短絡的思考に陥ったのです。「スーパーエース」という用語の浸透をきっかけに日本は、〝東洋の魔女〟以来伝統的に受け継ぎ、世界をリードしてきた戦術的特徴を、急速に失っていきました。
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 日本では古くから「二段トス」という用語が広く用いられてきましたが、海外にはこれに相当する用語がありません。その背景には、かつてブロックのワンタッチが1回目の接触と数えられたルールの下で日本が行ってきた、ワンタッチ直後のボールをアタッカーへのセット(二段トス)にする戦術が、色濃く影響していると言えるでしょう。かつての日本は、ブロック直後のトランジションでいかに効果的な攻撃を繰り出すか? ということへの意識が高く、二段トスに代表される〝トランジションの攻撃システム〟で世界をリードしていたのです。これに対抗すべく外国勢は、相手の攻撃をブロックだけでしとめようと、大型化を背景に〝個人技術〟としてのブロック力を追求し、日本を次々と追い抜いていきました。
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 そういう歴史的背景の中で、アメリカが世界に先駆けて導入したのが〝分業システム〟でした。分業によるセンターの選手のブロック力向上を背景に、リードブロックシステムという組織的なブロック戦術を導入し、ブロックとディグとの連携を効率的に高めたのです。つまりリードブロックシステムは、かつて日本が世界をリードした〝トランジションの戦術〟を、外国勢が自身のディグ能力に見合った形で可能にした合理的システムであり、分業する本当の意義は〝個人技術〟に対抗できる〝組織的戦術〟を生み出すことにあったと言えるでしょう。リードブロックシステムが〝トランジションの戦術〟である以上、セットの役割こそ重要であり、その役割は前衛センターの選手に課せられたのですが、分業の意義を「苦手なプレーを行わずに済む」点に求めた日本では、レセプションだけでなくレシーブ全般を苦手とするセンターの選手が多くなり、彼らにセットの役割を課す攻撃システムが構築できず、結果としてリードブロックシステムの導入が遅れました。世界が〝分業システム〟の導入により〝組織的戦術〟に意識を向け始める中、日本は「スーパーエース」という用語に踊らされ〝個人技術〟へ意識が逆行し、世界から取り残される結果を招いたのです。
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 さらに、守備に関わるプレー全てが「レシーブ」の1語で一括りにされてしまう用語体系も、日本にとっては災いでした。海外同様「レセプション」と「ディグ」の2つの用語に分かれていたなら、センターとライトの選手に免除されたプレーがレシーブ全般であるように誤解されることは避けられたようにも思います。こうして見てくると、戦術の変遷にとって「用語」の果たす役割は、意外に大きいことがわかって頂けるかと思います。
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◎〝脱・スーパーエース〟の道を歩み始めた、世界トップレベルのバレーボール戦術
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〝分業システム〟の登場以降、世界のバレーボール戦術は一貫して〝組織化〟の道を辿りましたが、そこに転機が訪れました。きっかけは1999年から採用されたラリーポイント制です。世界各国でサーブ力の強化と戦略化が進んだ結果、勝負所で相手のサーブに崩された場面で、3枚ブロックを打ち抜けるだけの優れたスーパーエースの存在が、必要不可欠な要素となりました。〝組織的戦術〟をつきつめるほど、最後はスーパーエースの〝個人技術〟に頼らざるを得なくなるというジレンマに陥ったのです。
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 このジレンマを解消する答え(〝脱・スーパーエース〟)を導き出したのが、現ブラジル男子ナショナルチームを率いるレゼンデ監督でした。彼は、レセプションが乱れた苦しい場面でも、4人のアタッカーが〝同じテンポ〟で攻撃を繰り出す高度な戦術を作り上げたのです。それをどうやって実現したのか? 〝レゼンデバレー〟の神髄を紐解いてみましょう。
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 レゼンデ監督はまず、レセプションの目標点をアタックライン付近で構わないと意識づけしました。この意識改革は、レセプションの要であるレフト陣の技術的・精神的負担を減らし、彼らがレセプション直後にファースト・テンポの攻撃へ参加するのを容易にしました。さらに、アタックライン付近の難しい位置から、前衛ないし後衛ライトへのファースト・テンポのセットを繰り出せるよう、左利きでテンポの早い攻撃を打ちこなす能力の高い選手をオポジットに配しました。こうして、レセプションの場面で4人のアタッカーが〝同じファースト・テンポ〟の攻撃を繰り出せるようになると、レゼンデ監督はこれをトランジションの場面にも応用しました。ディグの目標点もアタックライン付近へと移動させ、その位置からファースト・テンポでセットする役割をリベロに課したのです。ルールでの制約上、リベロはフロント・ゾーン内でオーバーハンドパスを用いることが現実的に不可能なため、この発想は画期的に思えましたが、この戦術も基を辿れば、トランジションの出現頻度が高い女子バレーボール、特に日本を含めたアジアの女子バレーボールで培われてきた、二段トスに代表される〝トランジションの攻撃システム〟に行き着くのです。リードブロックシステム以来、ブロックとディグの連携を追求してきた男子バレーボールの戦術変遷の中で、トランジションを重視するのは自然な流れでした。その流れの中でレゼンデ監督は、男子バレーボールで培われたブロックシステムと女子バレーボールで培われたトランジションの攻撃システムの融合を試み、それによって〝脱・スーパーエース〟という難しい命題を解いたのです。
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 世界に先駆けて〝脱・スーパーエース〟を確立したブラジルは、他国の追随を許さない新たな戦術をも手に入れました。それはデディケートシフトブロックの徹底です。相手ブロック陣が、ブラジルの繰り出す〝同じテンポ〟の攻撃に対して〝4対3〟での戦いを強いられるのに対し、ブラジルはライト側から〝遅いテンポで〟攻撃してくる相手のスーパーエースへのマークを外してデディケートシフトを敷き、〝3対3〟で戦える優位性を手に入れたのです。もちろんこの戦術には、ライト側から攻撃してくる敵のスーパーエースに対して、レフトブロッカーを軸に確実に2~3枚ブロックを完成させる能力が不可欠であり、その意味でレフトの選手には、ブロックの軸としての役割が新たに課せられることになりました。
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◎「用語」を見直すことで切り開ける、日本バレー界の進むべき道
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 このようにレゼンデ監督の戦術には、「優れた〝組織的戦術〟の構築のために〝分業システム〟がある」という本質が、忠実に受け継がれています。〝脱・スーパーエース〟を達成するために各ポジションに要求されるプレーこそが、〝レゼンデバレー〟における新たな〝分業システム〟(※)であり、それを忠実に再現したアメリカが、北京で五輪の栄冠を再び勝ち取りました。「スーパーエース」に代わって「オポジット」という用語が使われ始めた今こそ、日本にとって〝脱・スーパーエース〟の道を歩みつつある世界トップレベルの戦術の変遷に追いつく、またとないチャンスと言えるのです。
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(※)〝レゼンデバレー〟における新たな〝分業システム〟
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[[ファイル:レゼンデバレーにおける分業制.pdf]]
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 「用語」を基軸に、世界トップレベルのバレーボール戦術の変遷を見てきました。海外の戦術を模倣していては、日本は世界をリードすることは出来ない、という意見をよく耳にします。しかし、レゼンデ監督が〝分業システム〟の本質や、かつての日本が誇った〝トランジションへの意識の高さ〟など、過去のトップレベルの戦術を受け継いだ上で〝レゼンデバレー〟を築き上げたことを鑑みると、新たな戦術を生み出すためには、現在日本を遙かにリードする海外で使われている用語の生まれた戦術的背景をきちんと理解・消化することが必須であり、それすらも行われないならば、日本が世界をリードすることなど、決してないと断言してもいいでしょう。男子を中心に見てきましたが、女子も少し遅れて同じ戦術変遷を辿っています。日本の男子バレーボールが歩んだ苦難の道を、女子バレーボールが同じように辿らないためには、まさに今が正念場です。この本をきっかけに用語に対する関心が高まることを期待するとともに、今や世界標準となった〝レゼンデバレー〟を、決して〝高速バレー〟や〝スピードバレー〟という、うわべの理解に終わらせることなく、その本質を深く理解できる日本のバレーボール関係者やマスコミ関係者が、1人でも増えること期待したいと思います。

2014年8月30日 (土) 21:03時点における版

用語から見た戦術の変遷(詳細解説)


 最近、バレーボールのポジション用語が劇的に変化しています。これまで日本で定着していた「スーパーエース」に代わり、国際的に通用する「オポジット」という用語が、元々「ライト」と呼ばれたポジションを表す用語として、ようやくテレビ中継でも使われ始めました。しかし、それが意味するところまでを理解するには、世界トップレベルのバレーボール戦術が辿った歴史的背景を眺める必要があります。


◎〝分業システム〟の導入過程で、「スーパーエース」という用語が招いた弊害  「スーパーエース」という用語が日本で生まれたきっかけは、1980年代のアメリカ男子ナショナルチームが導入した革新的な〝分業システム〟にありました。レセプションをレフトの選手2人だけで行い、センターとライトの選手がそれ以外のプレーに専念できる環境を作ったのです。その結果、ライトの選手が前衛・後衛を問わず攻撃を仕掛け、文字通り〝スーパーエース〟の役割を果たせるようになりました。アメリカがロサンゼルス・ソウルと五輪2連覇を達成すると、〝分業システム〟は世界各国へ浸透していきましたが、この過程において日本では、レセプションを得意とする器用なセンターの選手がレフトへ、攻撃力はあってもレセプションの苦手なレフトの選手がライトへ、一斉にコンバートされるという現象が起きました。分業によって「各選手が苦手なプレーを行わずに済む」ため、世界に通用する〝スーパーエース〟を手っ取り早く生み出せる、という短絡的思考に陥ったのです。「スーパーエース」という用語の浸透をきっかけに日本は、〝東洋の魔女〟以来伝統的に受け継ぎ、世界をリードしてきた戦術的特徴を、急速に失っていきました。

 日本では古くから「二段トス」という用語が広く用いられてきましたが、海外にはこれに相当する用語がありません。その背景には、かつてブロックのワンタッチが1回目の接触と数えられたルールの下で日本が行ってきた、ワンタッチ直後のボールをアタッカーへのセット(二段トス)にする戦術が、色濃く影響していると言えるでしょう。かつての日本は、ブロック直後のトランジションでいかに効果的な攻撃を繰り出すか? ということへの意識が高く、二段トスに代表される〝トランジションの攻撃システム〟で世界をリードしていたのです。これに対抗すべく外国勢は、相手の攻撃をブロックだけでしとめようと、大型化を背景に〝個人技術〟としてのブロック力を追求し、日本を次々と追い抜いていきました。

 そういう歴史的背景の中で、アメリカが世界に先駆けて導入したのが〝分業システム〟でした。分業によるセンターの選手のブロック力向上を背景に、リードブロックシステムという組織的なブロック戦術を導入し、ブロックとディグとの連携を効率的に高めたのです。つまりリードブロックシステムは、かつて日本が世界をリードした〝トランジションの戦術〟を、外国勢が自身のディグ能力に見合った形で可能にした合理的システムであり、分業する本当の意義は〝個人技術〟に対抗できる〝組織的戦術〟を生み出すことにあったと言えるでしょう。リードブロックシステムが〝トランジションの戦術〟である以上、セットの役割こそ重要であり、その役割は前衛センターの選手に課せられたのですが、分業の意義を「苦手なプレーを行わずに済む」点に求めた日本では、レセプションだけでなくレシーブ全般を苦手とするセンターの選手が多くなり、彼らにセットの役割を課す攻撃システムが構築できず、結果としてリードブロックシステムの導入が遅れました。世界が〝分業システム〟の導入により〝組織的戦術〟に意識を向け始める中、日本は「スーパーエース」という用語に踊らされ〝個人技術〟へ意識が逆行し、世界から取り残される結果を招いたのです。

 さらに、守備に関わるプレー全てが「レシーブ」の1語で一括りにされてしまう用語体系も、日本にとっては災いでした。海外同様「レセプション」と「ディグ」の2つの用語に分かれていたなら、センターとライトの選手に免除されたプレーがレシーブ全般であるように誤解されることは避けられたようにも思います。こうして見てくると、戦術の変遷にとって「用語」の果たす役割は、意外に大きいことがわかって頂けるかと思います。

◎〝脱・スーパーエース〟の道を歩み始めた、世界トップレベルのバレーボール戦術 〝分業システム〟の登場以降、世界のバレーボール戦術は一貫して〝組織化〟の道を辿りましたが、そこに転機が訪れました。きっかけは1999年から採用されたラリーポイント制です。世界各国でサーブ力の強化と戦略化が進んだ結果、勝負所で相手のサーブに崩された場面で、3枚ブロックを打ち抜けるだけの優れたスーパーエースの存在が、必要不可欠な要素となりました。〝組織的戦術〟をつきつめるほど、最後はスーパーエースの〝個人技術〟に頼らざるを得なくなるというジレンマに陥ったのです。

 このジレンマを解消する答え(〝脱・スーパーエース〟)を導き出したのが、現ブラジル男子ナショナルチームを率いるレゼンデ監督でした。彼は、レセプションが乱れた苦しい場面でも、4人のアタッカーが〝同じテンポ〟で攻撃を繰り出す高度な戦術を作り上げたのです。それをどうやって実現したのか? 〝レゼンデバレー〟の神髄を紐解いてみましょう。

 レゼンデ監督はまず、レセプションの目標点をアタックライン付近で構わないと意識づけしました。この意識改革は、レセプションの要であるレフト陣の技術的・精神的負担を減らし、彼らがレセプション直後にファースト・テンポの攻撃へ参加するのを容易にしました。さらに、アタックライン付近の難しい位置から、前衛ないし後衛ライトへのファースト・テンポのセットを繰り出せるよう、左利きでテンポの早い攻撃を打ちこなす能力の高い選手をオポジットに配しました。こうして、レセプションの場面で4人のアタッカーが〝同じファースト・テンポ〟の攻撃を繰り出せるようになると、レゼンデ監督はこれをトランジションの場面にも応用しました。ディグの目標点もアタックライン付近へと移動させ、その位置からファースト・テンポでセットする役割をリベロに課したのです。ルールでの制約上、リベロはフロント・ゾーン内でオーバーハンドパスを用いることが現実的に不可能なため、この発想は画期的に思えましたが、この戦術も基を辿れば、トランジションの出現頻度が高い女子バレーボール、特に日本を含めたアジアの女子バレーボールで培われてきた、二段トスに代表される〝トランジションの攻撃システム〟に行き着くのです。リードブロックシステム以来、ブロックとディグの連携を追求してきた男子バレーボールの戦術変遷の中で、トランジションを重視するのは自然な流れでした。その流れの中でレゼンデ監督は、男子バレーボールで培われたブロックシステムと女子バレーボールで培われたトランジションの攻撃システムの融合を試み、それによって〝脱・スーパーエース〟という難しい命題を解いたのです。

 世界に先駆けて〝脱・スーパーエース〟を確立したブラジルは、他国の追随を許さない新たな戦術をも手に入れました。それはデディケートシフトブロックの徹底です。相手ブロック陣が、ブラジルの繰り出す〝同じテンポ〟の攻撃に対して〝4対3〟での戦いを強いられるのに対し、ブラジルはライト側から〝遅いテンポで〟攻撃してくる相手のスーパーエースへのマークを外してデディケートシフトを敷き、〝3対3〟で戦える優位性を手に入れたのです。もちろんこの戦術には、ライト側から攻撃してくる敵のスーパーエースに対して、レフトブロッカーを軸に確実に2~3枚ブロックを完成させる能力が不可欠であり、その意味でレフトの選手には、ブロックの軸としての役割が新たに課せられることになりました。


◎「用語」を見直すことで切り開ける、日本バレー界の進むべき道  このようにレゼンデ監督の戦術には、「優れた〝組織的戦術〟の構築のために〝分業システム〟がある」という本質が、忠実に受け継がれています。〝脱・スーパーエース〟を達成するために各ポジションに要求されるプレーこそが、〝レゼンデバレー〟における新たな〝分業システム〟(※)であり、それを忠実に再現したアメリカが、北京で五輪の栄冠を再び勝ち取りました。「スーパーエース」に代わって「オポジット」という用語が使われ始めた今こそ、日本にとって〝脱・スーパーエース〟の道を歩みつつある世界トップレベルの戦術の変遷に追いつく、またとないチャンスと言えるのです。

(※)〝レゼンデバレー〟における新たな〝分業システム〟 ファイル:レゼンデバレーにおける分業制.pdf


 「用語」を基軸に、世界トップレベルのバレーボール戦術の変遷を見てきました。海外の戦術を模倣していては、日本は世界をリードすることは出来ない、という意見をよく耳にします。しかし、レゼンデ監督が〝分業システム〟の本質や、かつての日本が誇った〝トランジションへの意識の高さ〟など、過去のトップレベルの戦術を受け継いだ上で〝レゼンデバレー〟を築き上げたことを鑑みると、新たな戦術を生み出すためには、現在日本を遙かにリードする海外で使われている用語の生まれた戦術的背景をきちんと理解・消化することが必須であり、それすらも行われないならば、日本が世界をリードすることなど、決してないと断言してもいいでしょう。男子を中心に見てきましたが、女子も少し遅れて同じ戦術変遷を辿っています。日本の男子バレーボールが歩んだ苦難の道を、女子バレーボールが同じように辿らないためには、まさに今が正念場です。この本をきっかけに用語に対する関心が高まることを期待するとともに、今や世界標準となった〝レゼンデバレー〟を、決して〝高速バレー〟や〝スピードバレー〟という、うわべの理解に終わらせることなく、その本質を深く理解できる日本のバレーボール関係者やマスコミ関係者が、1人でも増えること期待したいと思います。